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最高裁判所第二小法廷 昭和39年(あ)2728号 判決 1965年9月10日

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人司波実の上告趣意第一点について。

所論は、いわゆる預り円の非居住者に対する支払を内容とする被告会社の本件所為につき、外国為替及び外国貿易管理法(以下単に法と称する)三〇条及び外国為替管理令一三条によれば、いわゆる預り円なる債務を負担する行為が、その規制の対象とされていないことが明らかである以上、何人も法三〇条によりこの債務については弁済の当事者となり得るものであり、換言すれば、支払をなすことを得るものと解すべきであるから、被告会社の本件所為は法二七条の支払の制限禁止の対象とならないと主張する。

所論は、単なる法令違反の主張であって、適法な上告理由に当らない。(なお、いわゆる預り円なる債務の発生等につき当事者となることが、法三〇条の禁ずるところでないとしても、非居住者に対して預り円を支払うについては、法二七条一項二号前段の規制を受けるものと解すべきである旨の原判断は正当である。)

同第二点について。

所論は、原判決には憲法三九条に違反し、同一犯罪について重ねて、刑事上の責任を問うた違法があると主張する。

しかし、憲法三九条後段の規定は、一の犯罪につき裁判により処罰された上は、同一の犯罪につき重ねて処罰されない趣旨を定めたものであって、このことは当裁判所の判例(昭和三四年(あ)第二六六号同三七年一一月七日大法廷判決、刑集一六巻一一号一五〇五頁)の示すところであるが、所論関税法違反の罪につき被告会社が通告処分を履行したことが、裁判により処罰されたことに当らないことは明らかである。また、右通告処分の履行は、当該犯罪について公訴提起の条件を欠缺させることにはなるが、科刑上の一罪の一部について訴訟条件が欠缺しても、他の部分については適法に公訴を提起しうるものと解すべきである。のみならず、所論関税法違反の罪と本件の法二七条一項二号違反の罪とが別罪である旨の原判示も亦正当である。従って、所論はいずれの点よりするも採るを得ない。

また記録を調べても刑訴法四一一条を適用すべきものとは認められない。

よって同四〇八条により裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 奥野健一 裁判官 山田作之助 裁判官 草鹿浅之介 裁判官 城戸芳彦 裁判官 石田和外)

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